天の石笛(あまのいわぶえ)伝説

昔々、千葉の飯岡(いいおか)という小さな漁村に、源助(げんすけ)という働き者の若者がいた。

今日も源助は、仲間の漁師と海に出て漁をしていた。ところが、俄かに天候が怪しくなり、今まで凪いでいた海が荒れ始めた。大波が舟を襲い、舟は木の葉のように揺れた。漁師たちは採った魚を捨て、命からがら浜まで戻ってきた。

その夜、源助は一人浜辺に出てなにやら考え込んでいた。源助の目の前には、ついさっきまで荒れていたとは到底思えない、凪いだ夜の海が広がっていた。実は源助、ひと月程前の時化(しけ)の日におっとうを亡くしてしたのだ。

源助は思った。「こんなことが続いては、村人は飢え死にしてしまう。どうにかして、嵐が来るのを事前に知ることは出来ないだろうか?」そんなことを考えていると、何処からともなく、「ヒューヒュー」という笛の音が聞こえて来る。源助は不思議に思い、音のする方に歩いて行った。

すると、珍しい形の石が源助の目に留まった。石は中心に穴が開いており、この穴に風が通って音を出していたのだ。源助が石を手にとって見ていると、いつの間にか見知らぬ老人が源助の傍らに立っていた。

老人は源助に言う。「お前が持っている石は、天の石笛という物。天から授けられた石笛で、海の時化を知らせる。その石笛を浜の風通しのよい所に置くがよい。その石笛が鳴ったら、決して海に出てはならない。」そう言うと、老人は消えてしまった。源助は不思議に思いながらも、石笛を浜の高台に置いてみた。

翌朝、源助が海を見ると海は鏡のように凪いでおり、絶好の出漁日和に思えた。ところが、源助が舟を出そうとした矢先、「ヒューー」と石笛の鳴る音が聞こえた。「こりゃいかん!!海が時化る。」源助は、仲間の漁師に漁を止めるように言うが、ほかの者は源助の言うことなどお構いなしに海に出て行ってしまった。

ところが、しばらくすると海はみるみる内に大荒れとなった。そして漁師たちは、またも命からがら浜に戻ってくるのだった。この事があってからというもの、村人たちは石笛が鳴ると漁に出るのを止め、荒れた海で命を落とす者も無くなったそうだ。

そして石笛は、浜の高台に祀られ、末永く漁師の安全を守ったということだ。

 

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